OTHER 2025.07.16

“秘境の島”こそ、自転車で走りたい。風景に溶け込む、自由と出会いの島旅へ

アクセスにひと手間かかる“秘境の島”こそ、自転車で巡りたいもの。バスの本数が少ない島でも、自分のペースで好きな場所へ向かえる自由さと、風景の中に溶け込むような没入感が魅力です。そして小道の先の絶景や島民との思わぬ交流など、自転車だからこそ出会える瞬間が詰まっています。

土庄 雄平
(トラベルライター)
商社・メーカー・IT企業と営業職で渡り歩きながら、複業トラベルライターとして活動する。メインテーマは山と自転車。旅の原点となった小豆島、転職のきっかけをくれた久米島など、人生の岐路にはいつも離島との出会いがある。
秘境の島だからこそ、自転車の機動力の高さが生きる

舗装された道路も少なく、バスやタクシーの本数も限られている秘境の島々。だからこそ、自転車の機動力が何よりの味方になります。細い道を抜けて海辺に出たり、誰もいない丘の上までのぼって絶景をひとり占めしたり。自分のペースで自由に巡れる自転車は、島旅における最高の相棒です。ガイドブックには載っていない景色、偶然出会う島民とのふれあい。気の向くままに寄り道できるからこそ、奥行きある島の魅力に自然と出会えます。限られた時間の中でも、自転車なら濃密な旅の記憶を刻むことができるのです。

島の時間と一体になるような、没入的サイクリング体験

ひたすらに感じられるのは波の音と、軽快にタイヤが転がるリズムだけ。島の空気を全身で受けながら、景色の中に溶け込んでいく。そんな没入感こそが、島を自転車で巡る醍醐味です。坂道の先に現れる絶景、潮の香りを含んだ風、ふと見つけた小さな神社や湧き水スポット。自転車でしか気づけない“旅情豊かな発見”が、島のあちこちに息づいています。移動が体験へと変わる。歩くには遠く、車では速すぎる。その“ちょうどいい速さ”だからこそ見えてくる風景があり、自転車だからこそ感じられる、五感を刺激する旅の時間があるのです。

アクセスの際のアイランドホッピングも旅情をかき立てる

秘境の島へ渡るには、船を乗り継ぐ「アイランドホッピング」が必要になるケースもしばしば。しかしこのアクセスこそ、旅情を一層かき立ててくれる要素です。いくつもの島を巡りながら進む旅路では、それぞれに異なる風景と空気が迎えてくれます。そして、そのたびに心がふっと開き、思わず声を漏らしたくなるような驚きと感動に包まれます。港に近づくたびに少しずつ高まる期待感、船のデッキで感じる風、海を渡る静かな時間。目的地に辿り着くまでの過程すら、旅のハイライトになると言っても良いかもしれません。

エメラルドの海と祈りの教会。奈留島で見つけた“ぬくもりの旅”

「奈留島」は、五島列島の中でもひときわ秘境感のある小さな島です。福江島からフェリーでおよそ45分。船を降りた瞬間に広がるのは、昔ながらの素朴な港町の風景です。ゴールデンウィークには鯉のぼりが風に揺れ、島全体にどこか懐かしい情緒が漂います。青く澄んだ海と新緑とのコントラストに心が弾み、自転車をこぎ出せば、感性をやさしく受け止めてくれるような旅が始まります。

地図では目立たないような海岸線の小道にも、その先には思わず息をのむような絶景が待っています。深く紺碧に染まる海や、空を映し出すスカイブルーの入り江。どこにでもありそうな漁村の風景の中にこそ、観光地化されていない奈留島ならではの魅力が詰まっています。写真では収まりきらない大パノラマと、どこまでも続くストレスフリーな道。自転車だからこそ満喫できる穏やかな風景が、次々と流れていきます。

世界遺産に登録されている「江上天主堂」では、森に囲まれた静寂の中で、心を落ち着かせる内省のひとときを過ごすことができます。一方で島の北部では、防風堤の先に広がる圧巻の景色が旅人を迎えてくれます。さらに、移動販売車との偶然の出会いや、三兄弟工房でのお土産選びも、旅の記憶をより豊かに彩ってくれるでしょう。

旅の締めくくりには、五島列島屈指の絶景スポットである「宮ノ浜海水浴場」へ足を運んでみてください。宝石のようにきらめくエメラルドグリーンの海が迎えてくれるこの場所は、観光スポットというより、心をそっと解き放つ特別な空間です。静寂と景色の美しさ、そして島人のあたたかな心に触れる。奈留島では、そんなかけがえのない旅の時間が待っています。

日本最北の島で感じた、旅の本質。礼文島サイクルジャーニー

北海道最北端、“北の果て”に静かに佇む「礼文島」。アクセス手段としては稚内からのフェリーもありますが、一般的には利尻島を経由し、鴛泊港から船で渡るルートが選ばれています。約1時間40分の船旅の先に、丘陵状の山並みが美しい礼文島の風景が待っています。

標高500メートルに満たない礼文岳を中心に広がる礼文島には、本州の高山帯でしか見られないような希少な高山植物が咲き、島固有の花々も含めて400種以上が確認されています。その姿はまさに、“花の浮島”と呼ぶにふさわしいものです。島の自然を存分に楽しむなら、レンタサイクルの利用がおすすめ。自転車を持ち込むのは容易ではありませんが、現地で借りれば、最果ての島を自らの脚でめぐる冒険を手軽に体感できます。

筆者が宿泊した『ペンションうーにー』では電動アシスト自転車を貸してもらえます。日本海の向こうに利尻山を望みながら走る東海岸の道は、まさに絶景コースです。途中、天日干しされた昆布が海風に揺れ、作業する地元の人々の姿に島の日常が垣間見えます。自転車を漕いでいると気さくに声をかけてもらい、筆者もそんな交流のなかで、礼文の特産である高級昆布をご厚意でいただきました。

そしてもう一歩、島の内陸へと分け入れば、そこには手つかずのフィールドが広がっています。冒険心をくすぐる圧倒的なスケールの自然の中に息づく、飾らない暮らしと人の温もり。ここでしか味わえない唯一無二の時間や経験がある、これこそアクセスが容易でない秘境の島に足を運ぶ理由ではないでしょうか。

エメラルドの入り江と神秘の山。神津島を駆ける自転車旅

東京から約180km南、伊豆諸島のひとつに数えられる「神津島」は、まさに“秘境”と呼ぶにふさわしい迫力と神秘に包まれています。港に近づくと、切り立った断崖のふもとに寄り添うように広がる町並みが目に飛び込み、その特異な地形が旅人の心を強く惹きつけます。

神津島を自転車でめぐる旅は、変化に富んだ地形の中を駆け抜ける冒険そのものです。青く透き通った海を背に、切り立つ崖沿いの道を進めば、自然の造形美に心を奪われます。島の裏手に位置する多幸湾を目指すルートには、起伏のある坂道や風景の移り変わりが連なり、ときには自転車を押してのぼる場面も。しかし、振り返ったときに広がる大パノラマと、島の象徴・天上山の壮大な姿が、その時間まで特別な体験へと変えてくれます。

島内には三浦湾展望台や松山展望台、多幸湾展望台など、雄大な自然を望む絶景スポットが点在しています。なかでもエメラルドブルーに輝く多幸湾は、自然が生み出した奇跡ともいえる美しさです。火山活動によって形づくられた神津島の地形は、どこを切り取っても力強く、同時に神聖さを感じさせます。名水と名高い湧き水や、独自の気候が育む豊かな自然、断崖の上に広がる素朴な集落の風景など、島全体が訪れる人の感性を刺激してくれます。

神津島を語るうえで欠かせない存在が、標高572mの「天上山」です。登山道の途中には、この島ならではの植生や、どこまでも続く稜線、さらには砂丘のような表砂漠や裏砂漠が広がり、標高以上のスケール感を感じさせてくれます。ときには雲が流れ込み、霧が立ちこめる幻想的な光景が広がり、その様子はまるで異世界のようです。

島風を感じてペダルを踏む旅。心を解き放つ、秘境の島サイクリング

波音と潮風に包まれながら、心と身体で島の時間を味わう。それが秘境の島でのサイクリングの醍醐味です。五島列島の奈留島、北海道の礼文島、伊豆諸島の神津島。いずれも風土も表情も異なり、どの島も唯一無二の魅力にあふれています。非日常の風景と人の温もりに触れる旅は、目的地に辿り着いたその先にこそ、忘れがたい記憶を刻んでくれるはずです。